このページでは、指導教員や当研究室の学生・卒業生が行った研究のうち、学術論文や大会梗概として公開されている主要な研究成果のみ掲載しています。研究室で行なった全卒業研究のリストは「ゼミの活動」のページをご覧ください。
Ⅰ.リスク認知・避難行動
2019年台風19号における多摩川流域住民の避難場所選択行動―狛江市猪方地区における事例から―
諫川輝之
<日本建築学会計画系論文集,Vol.87,No.794,pp.690-701,2022.4>
2019年の台風19号では、多摩川流域で浸水被害が発生し、多くの自治体で避難所が満員となる問題が生じた。本研究では、その一つである狛江市猪方地区を対象として、台風上陸当日における住民の避難行動を把握したうえで避難場所選択行動の実態を明らかにし、それらに影響した要因を考察する。住民へのアンケート調査を行ない、以下のことを明らかにした。1)対象地域で避難した人は約4割おり、最初に避難した場所は、指定避難所が6割弱、親類・知人宅が3割弱などとなっていた。2)別の場所への再避難を行なった人は1割弱であったが、指定避難所が満員との情報を得て避難をあきらめた人もおり、潜在的にはさらに多くの住民が集中していた可能性がある。3)避難場所の種別によって、選択理由や避難意思決定のきっかけ、避難した時刻の傾向が異なっていたことから、早い段階での避難を徹底することで分散避難がしやすくなることが示唆される。
暗渠周辺における住民の水害に対するリスク認知―世田谷区内の暗渠を対象として―
渡邉孝信,諫川輝之
<日本建築学会技術報告集,Vol.28,No.68,pp.374-379,2022.2>
都市部には河川に蓋をした「暗渠」が多くあり、内水氾濫が起きやすい場所の一つとなっているが、その存在を目視で確認できないため、水害リスクに気づきにくい。暗渠の整備形態は様々であることから、本研究では暗渠周辺における住民の暗渠の認知や水害に対するリスク認知に暗渠の整備形態や暗渠との関わりがどのような影響を及ぼすのかを明らかにする。まず仮説を構築し、都内でも暗渠の本数が多い世田谷区内の暗渠から物理的特徴の異なる3地区を選定して、住民へのアンケート調査を実施した。その結果、緑道として整備されている暗渠のほうがそうでない暗渠より暗渠として認知されていたが、水害に対するリスク認知に整備形態による有意な差はみられなかった。しかし、個人単位でみると暗渠を認知している人はしていない人よりリスク認知が高く、暗渠の整備形態や暗渠との関わりが暗渠の認知を介してリスク認知に影響していると考えられる。
防潮堤の存在が住民の津波リスク認知と避難行動に及ぼす影響―沼津市静浦の事例から―
諫川輝之,横山ゆりか
<人間・環境学会誌(MERAジャーナル),Vol.22,No.1,pp.59-68,2019.9>
防潮堤の存在が、沿岸地域の住民の津波に対するリスク認知や避難行動に影響するかを実証的に明らかにするため、静岡県沼津市静浦の防潮堤がある地区とない地区の住民を対象として、防災意識や避難行動などに関するアンケート調査を行ない、311名のデータを比較分析した。その結果、防潮堤がある地区でも津波に対する危機意識は高いものの、ない地区に比べて非常に危険と考える程度は低くなっており、実際の津波時の避難率が低いこと、避難が必要と思う津波高が高いこと、ハザードマップを詳しく見た人や避難場所を決めている人が少ないことなどに有意な違いがみられた。このことから、防潮堤が、津波に対する浸水リスク認知や備え、避難行動に一定の影響を及ぼしていることが明らかとなった。
津波発生時における沿岸地域住民の行動 ―千葉県御宿町における東北地方太平洋沖地震前後のアンケート調査から―
諫川輝之, 村尾修, 大野隆造
<日本建築学会計画系論文集, Vol. 77, No. 681, pp. 2525-2532, 2012.11>
東北地方太平洋沖地震における甚大な津波被害を受け,人々の意思決定や行動の実態を把握し,防災対策の見直しに反映させていく必要がある。
本研究では,筆者が2008年に津波を想定して避難行動の意向等についてアンケート調査を行なった千葉県御宿町を対象として,前回調査との比較も行ないながら,今回の地震直後に沿岸地域の住民が実際にとった行動を個々人の状況や時間的な前後関係に着目して詳細に把握し,それらに影響した要因を明らかにする。
事前の想定質問に対して示された意向と実際の行動との大きな差異から、いわゆる「意識と行動の乖離」が明らかになり、また津波に関する情報を取得し緊急事態と認識しても,多くの人が避難しない傾向が示された。さらに,住民の行動は地震時にいた場所により異なること,避難以外の根源的な欲求に基づく様々な移動行動が見られることを指摘し,今後の防災対策において考慮すべき内容を示した。
住民の地域環境に対する認知が津波避難行動に及ぼす影響―千葉県御宿町の事例から―
諫川輝之, 大野隆造
<日本建築学会計画系論文集, Vol. 79, No. 705, pp. 2405-2413, 2014.11>
【2016年日本建築学会奨励賞受賞】
<Japan Architectural Review, https://doi.org/10.1002/2475-8876.12045,2018.6>
津波災害は沿岸域で発生するため、住民の避難行動も地域の地形や道路網などの物理的環境に対する認知に影響を受けると考えられる。
本研究では、東日本大震災において大津波警報が発令された千葉県御宿町を対象としてアンケート調査を実施し、津波時における避難実施の判断、避難場所・経路選択の実態を地域の環境と対応させながら詳しく分析するとともに、事後的に調査した環境認知構造との関連を考察した。
その結果、避難実施の判断は自宅の位置によって大きく異なっていたが、標高や海からの距離に関する認知は実際の空間とはずれていた。また、避難場所の選択は高さや近さ、指定の有無など様々な要因によっており、環境に対する認知が関係していた。さらに、海に近づく・川を渡るなどの危険な避難経路が多数選択されており、その一部は環境認知の歪みが影響していることが明らかになった。以上の結果をもとに、効果的な津波避難対策のための提案を行なった。
東日本大震災体験後における住民の津波避難に関する意識―軽微な津波を体験した千葉県御宿町における震災前後のアンケート調査から―
諫川 輝之,大野 隆造,村尾 修
<地域安全学会論文集, No.30(電子ジャーナル論文),pp.103-110,2017.3>
東日本大震災による大津波の経験は、被災地以外の住民にも何らかの意識の変容をもたらしたと考えられる。本研究では、津波が襲来したものの大きな被害は受けなかった千葉県御宿町の沿岸地区住民の避難意識を検討するためにアンケート調査を行なった。筆者らは、同町において震災前にも同様の調査を実施しており、一部の設問について震災前後の比較が可能である。その結果、震災後何らかの防災対策を実施した家庭は多いが高齢者ほど実施率が低いこと、浸水リスクに関する認知傾向に震災前との差異は認められないことが明らかになった。
Ⅱ.災害と住まい
家具配置による地震時の安全性に関する知識と行動の不一致
深尾直杜,諫川輝之
<人間・環境学会誌>
本研究では地震時の安全性を考慮した家具配置を行う際の、知識と行動の不一致に着目し、人々が地震に備えた家具配置を行う際、知識を行動面で発揮しがたい要因を明らかにすることを目的とする。被験者20名に対して家具配置の知識を問うアンケート調査、模型上での家具配置実験、および実際の居住空間に関する自記式調査を実施した。
その結果、被験者のほとんどは地震に備えた家具配置に関する知識を有していたものの、防災性に優れた家具配置を行った人は実験で半数程度、実際の居住空間では約2割にとどまった。また、防災性に欠けた家具配置を行ってしまう要因として、家具を配置する際に自身が住みやすい空間構成を優先することが考えられる。
水害リスクが居住地選択に及ぼす影響 ―東松山市高坂地区の居住誘導区域を対象として―
諫川輝之,泉磨理菜
<日本建築学会計画系論文集,Vol.87,No.797,pp.1249-1258,2022.7>
本研究は、河川に近い地域の人々が居住地を選択する際に災害リスクがどの程度考慮されているのかを明らかにするとともに、水害リスクの有無が居住地選択や災害リスクに対する考え方にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とする。埼玉県東松山市のあずま町と高坂の住民にアンケート調査を実施した。居住地選択時にはほとんどの人がコストや利便性を重視する一方、災害に対する安全性を重視する人は少なかった。浸水想定区域の内外で水害に対する安全性の重視の度合いには差があったが、災害リスクに関する情報収集には有意な差がみられなかった。
Ⅲ.各種施設における防災対策・リスクマネジメント
水族館での災害発生時における飼育生物の扱いに関する研究